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淡く暗い星空に輝く星々
一つ一つに違う輝きを秘めていると、
教えてくれたのは貴方でした。

鮮明に浮かび上がる古の星座へ
サヨナラを送りましょう。


第七章 「氷上の月」


「・・皆、無事かな・・・」

クロノが"次"に選ばれ行ってしまい、
再び訪れた静寂に耐えられなくなりソウゲツは呟く。

「だと、いいですね・・・」

会話が、続かない。
1階1階上がるごとに、
必ず一人犠牲になる。

流石に皆、動揺してきている。

本当にこの先に助かる術は有るのだろうかという不安と、

"次"は自分かもしれないという恐怖に囚われ、
会話などという暇は無かった。

さっきとは違った重い空気の中、灯はドアの取っ手を握る

「開けるぞ」

皆の頷きを確認し、ドアを開いた。

部屋に入ると一面、雪景色だった。

「これは・・・」

不思議そうな顔をする彼等の中で一人、思い出せなかった記憶を思い出した者がいた。

「き・・・鬼狂・・・」

動揺を隠せないのは、氷だった。
雪景色に紛れ立つ者を動揺する目で見続けている。

「久しぶりだね、何年ぶりかな?」

白髪に赤い双眸。
左の横髪だけが黒くて、上向けに縛っている。
アブソルの彼の名は、鬼狂。

鬼狂と呼ばれた其れは、増えるでもなく、減るでもない雪野原を余裕を持った顔で歩いてくる。

「・・灯姉・・・"次"は私でした」

「氷・・・お前まさか・・」

「そのまさかです。先に行ってください」

灯をドアの方へ押す。

「でも・・・」

「礎がないと城は建たないんですよ」

笑顔で見送る。

「灯姉、」

「な、なんだ?」

「有難う御座いました、さようなら」

素朴な笑みを浮かべてドアを閉める。

「大きくなったね~」

「・・・」

あの記憶が、舞い戻ってくる。

思い出すな、と自分に言い聞かせるが、思い出してしまう。

血塗られた記憶が。

私が鬼狂と会ったのは、
まだお父さんもお母さんも生きていて、

何もかも幸せで、
この幸せがいつまでも・・・
いつまでも続くと信じていた。


よく晴れた春。
雪も溶け、草花が顔を出す季節。
誰も居ない草原で一人、私は遊んでいた。
誰も知らない隠れ場所。
だったのだけれど、ある日彼が話しかけてきた

「何してるの?」

私は人見知りだったから、最初は話すことも辛かった。
でも日に日に会話をすることによって、私は心を開いていった。
彼と遊ぶのは楽しかった。
だから毎日色々な遊びをして楽しんでいた。
時には守ったり、守られたりしながら二人で生きてきた。

でも・・・

あの事件が起きてしまった。

それは秋の雨の日。

「ただいま!!」

いつものように家に帰る。
いつもなら両親の暖かい声が聞こえるはずだが、
狂はいつもと違った。

明りが灯っているはずの明りは消えていて、
壁、床は紅く染まっている。

「何・・・これ」

まだ私は幼かったから、動揺を抑え切れなくて、

部屋に入って、あることに気付く。
見覚えのある人物が部屋の中心に立っているではないか。

「誰・・・?」

確認しようと近づく。
其れは此方を振り返る。

振り返ったのは、優しかったはずの鬼狂。

でも、今は違う。
面妖な笑み。
紅く染まった身体。
手に持っているのは、サバイバルナイフ。

この人は、誰?

一瞬、そんな衝動に駆られた気がした。

「あ、氷か」
依然とした態度で話し始める。

ふと、床を見る。
見なければよかったのに、
見ないままで殺されればよかったのに。

床に転がるのは
昨日まで暖かかったはずの
両親の、屍

「そ・・・んな・・・」

「あ~あ、見つかっちゃったよ」

彼が、両親を

殺した?

思考回路が働かない。

何故?
どうやって?
殺 し た ?

「なんで・・・お母さん!!お父さん!!」

無我夢中で叫ぶ。
生き返らないと知っているのに。

「この人達は君の悪口を言ったんだ。死んで当然さ」

当・・・然・・・?

「鬼狂・・・おかしいよ・・・なんで・・・そんな・・・」

涙が込み上げて来る。

鬼狂の皮を被った殺人鬼は、悲しい顔をする。

「君まで僕を馬鹿にするんだね・・・」

「え・・・?」

「酷いよ」



何かが起きた。

なんだろう。

お腹が、熱い。痛い。

ゆっくりと下を見る。
鬼狂が手に持っていたサバイバルナイフが刺さっていた。

「うそ・・・・でしょ」

狂気に餓えた顔をしていた鬼狂の顔が一瞬にして戻る。

「え・・・俺・・・氷まで殺して・・・・・嘘だろ・・?」

彼の眸に一筋の光が見えた気がした。

「う・・うぅ・・・っく・・っふ・・・ふふ・・・はは・・あっはははははは!!!」

「鬼・・・狂・・・」

「俺大切な人も殺しちゃったよ!!あっはははははははは!!!!!」


そこで、私の意識が途絶えた。

「そういえばそういうこともあったね」

「ふざけないで!!!」

意識が途絶えた後、偶然に偶然が重なって椿愧さんに助けられた。

「それにしても、まだ生きてたんだぁ」

「偶然で、生き残れました。」

「まぁいいや、僕には君を消すよう指令が出てる。」

「誰が指令を出したんですか・・・!!」

「そうだね、どうせ死ぬんだし教えてあげるよ」

「私は死にません!!貴方になんか殺されたくない!!」

『今まで部屋に残った者は皆死んだよ』

其の言葉で、時が止まった気がした。

「な・・・そんな・・・」

ドアの中に残った人達は皆・・・死ん・・・だ?
蘇芳、魁道、クロ、クロノ
私よりも遥かに強い筈の
彼等が、死んだ・・・?

「あー、そうそう。指令者の名前は"誡李"だよ」

誡李、そいつが彼等を殺した。
殺しても殺したり無い程の怒りが溢れてきた。

「誡・・李・・・許さない・・・」

でも、私は弱い。
どうしたら・・・

なら、俺が殺してやるよ

何かが聞こえたような気がした。

なんだか、意識が薄れて・・・


私は気を失った気がした。

「てめぇ・・・さっきから話きいてりゃいいご身分様だな」

氷の声、だが少し違う。
目つきも、声の低さも違う。

「君は誰だい?」

「俺は俺だ。氷だよ」

「ご冗談を」

呆れ、軽く笑ってみせる。
そんな笑いも無視し、氷と名乗る者は続ける

「お前のせいでコイツは心的外傷後ストレス障害になったんだよ」

「ほう、二重人格ですか」

「心の病からなる、な。・・・まぁそれはいいんだよ、それより」

「何?」

「お前、どうしてコイツの両親を殺した。」

「氷の悪口を言ったから、だったっけな。」

「フン、合格だッ」

氷は言葉を吐き捨てるや否や、鬼狂に攻撃を仕掛ける。

油断していたのか、蹴りが彼に当たった。

「ッ・・・強い・・・男並の力・・・」

「普段のコイツより、俺の方が数十倍は強い、油断するなよ」

戦いを楽しんでいるような口調で言う。

鬼狂はガードに必死で攻撃に移せてない。

「お前は其の程度か?」

氷が見せた一瞬の隙を、鬼狂は見逃さなかった。

氷の身体を蹴り飛ばし、ポケットからサバイバルナイフを取り出す。

「久しぶりに戦ったからちょっと身体がなまっちゃって、さ♪」

氷は口に付いた血を手で拭い、体制を整える。

「馬鹿にしてると痛い目みるぞ!!」

中身が変わってしまった氷の繰り出す攻撃は、並みの者でもよけることは出来ない。
鬼狂は数発当たりながらも、辛うじて掠り避けている

「ッ・・動きが読まれてるのかな・・・」

「お前だって・・・俺の動き・・・読めてるくせに・・・」

血だらけで睨み合う。

「ッゲホゲホ・・・!!」

氷が咳き込むと同時に紅いものが出る。
口が切れたか。

双方共々体力は限界であった。
こんな激しい戦いをかれこれ1時間はやっている。
更に、この部屋は5分ごとに1度下がる仕組みになっているそうで、計算すると12度は下がっている。
遵ってこの部屋の温度はすでにマイナスの域を越しているだろう。

それでも尚、どちらかが倒れるまで戦いは続くだろう。

しばらくの沈黙の後、
氷は隙を見て持っていた大型の剣を鬼狂の首めがけて投げた。

急に鬼狂が口を開いた。

「チェックメイト」

大きな音がした。

胸の辺りに広がる紅い滲み。
時間がゆっくり進むような錯覚に囚われる。

鬼狂の手には拳銃があった。

「拳銃・・・かよ・・・」

氷は悔しそうな顔をして、雪野原に倒れた。

鬼狂の首がその雪野原に転がるのは其の数秒後だった。

薄れ行く意識の中、
元の意識に戻った氷は
力の入らない手で落ちていたナイフを拾い
左手の甲にこう刻んだ

「誡李」

「これが・・・私に出来る・・・最後の・・・手助け・・・」

「神様、私は戦場の・・・氷上の月になれましたか・・・?」

自分の前にドアに残っていった仲間達が来てくれることを祈り、眸を閉じた。

紅い雪に半分埋まった
冷たい身体が掘り出されるのは、
永遠に無かった。

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